帝都サンクト・ペテルブルグ

朝早く、列車はサンクト・ペテルブルグ駅に滑り込む。我々はそこから地下鉄で数駅行ったところのネバ川湖畔のホテルに辿り着いた。 なんか至る所を工事中の建物だが、部屋に入ってまたもや唖然、その窓からは10年くらい前に工事を断念した、このホテルの本館らしき建物 が、視界一杯に残骸として横たわっていた。もし完成していればそれこそヒルトン、シェラトンなどに引けを取らない大ホテルになっ ていたのだろう。仕方なく入り口に面した建物だけ何とか完成させ営業している感じだ。崩れかかった巨大なガラス張りのホールを見て、 ソ連崩壊における財政崩壊をまざまざと見せつけられた。


サンクトペテルブルグ駅。
この頃は実にいい天気だったのだが...



崩壊著しいサンクト・ペテルブルグでの宿泊ホテル。
完成している一部のみで営業。


オーロラ号

崩壊しようが売店に何も売ってなかろうが、このホテルの最大の売りは、対岸にオーロラ号を見渡せることだろう。事実、彼女は原則に北 国の太陽を浴び、輝くようにして係留されていた。ホテルでの食事もそこそこに、我々は直ちに対岸に渡った。 「真鍋さん、僕が以前来た時に、ここらの露店で素晴らしく出来の良いオーロラ号の金属製の模型が売ってたんですよ。でも、アレはきっ と、手作りだからもう手に入らないかも知れませんね」 と言う言葉も終わらないうちに 「もしかしてこの事ですか?」 それは山積みになって売っていたのだ。何のことはない、量産品だった。 「そんな..てっきり手作りだと..あ!!安くなってる!!」 ドクトル、ダブルショックである。しかし今度は私がショックを受けることになる。オーロラ号に乗れないのだ。がーん!!どうしてどうし てとオタオタしていていると周りの雰囲気で何となく原因が分かった。時期が悪かったのだ。今回のロシア旅行は斎木氏の取材もあってロ シア海軍記念日に合わせての日程だった。それが裏目に出たのだ。この大事な海軍の祝典にオーロラ号が使われないはずがない。おそらく 艦上でも式典が執り行われるのだろう。そこを観光客に土足で踏みにじられるわけにはいかないのだ。そう言う理由での立入禁止なんだろ う。そう納得した我々はわずか10数メートル先に停泊している、整備の行き届いた美しい艦容に向かってひたすらシャッターを押すのみ であった。


朝日に輝く、対岸のオーロラ号。
う〜ん、美しい...



オ〜ロラ〜!!



見て!このディテール!!
因みに要目は、常備排水量6630t、
主砲6in45口径砲8門。
通商破壊用の防護巡洋艦で
姉妹艦のパルラーダは日露戦争で旅順にて捕獲され、
二等巡洋艦(後、敷設艦)として、
日本海軍に籍を置いている。



オーロラ号前の露店。
我々はここでロシア海軍旗や
オーロラ号の模型を買った。


砲兵博物館



砲兵博物館前でチョイと記念写真。

次の見物は砲兵博物館である。オーロラ号からさほど行かないネバ川の支流に沿ってそれはあった。帝政時代の古い兵舎を利用した広大な 建物で、その前庭に所狭しと各種大砲が古くは青銅製の前装砲から最新型の自走カノン砲まで、大砲大砲のオンパレードである。ここで気 付いたことだが、とにかく整備状態がいい。ペンキが剥げていることもなく、転把が取れていることはない。尾栓とかもきちんと揃ってる。 お国柄の違いもあるだろうが、うらやましい限りだ。それともう一つ、気候も関係しているかも知れないな。腐食が進まないとかね。けど 整備されているのは大砲だけ。夏とはいえ、草ぼうぼうだ。小型の対空砲など埋もれているぞ。 「以前、来た時より最新兵器が増えてるなぁ」 とは齋木氏の談。軍備縮小のあおりで最新兵器も博物館行きになってるのだろう。館内にも無数の砲が。写真なんか撮りきれない。第一フイ ルムがサンクト・ペテルブルグ市内では殆ど買えないのだ。と言うより店が見つからない。日本なんかと違って、通りに面して開けてる店など 皆無に近い。狭いドアを開けなきゃ何の店すら解らないのが実状だった。仕方なく露店なんかで手に入れるのだが、やはり割高だし数も揃っ ていない。この先どのくらいフィルムを確保できるのか見当が付かないので、撮影は最低限にする。70本ものフィルムを持ち込んだ齋木氏 からの援助もあるが、彼とてこれから長い取材が残っているのだ。(齋木氏はこの後、引き続いてポーランドやドイツの取材があった。)無理 強いは出来ない。巨大なロケットがある。一見してドイツのV−2号だ。おそらく捕獲したのを参考にしたコピ−であろう。他に殆ど客はい なかった。


巨大自走砲SU-310。
IS-3のコンポーネントを流用し、
1950年代に出現、核砲弾も発射できる。



203mm榴弾砲B4。
「のらくろ」の世界に出てきそうな
スタイルである。



とにかく大砲だらけ。



各種ミサイルもある。
SA-6ゲインフルだがなぜか
真ん中の一発が無くて様にならない。



当然、自走砲も。SU-76がチョコンと..



地雷犬とお友達。


ミル型ヘリ



爆音を上げて降下中のミル。

堅いコンクリートの床を安物の靴で歩き回ったおかげで、足の裏がひどく痛い。多分水膨れが出来ているんだろう。初日からこれじゃぁ.. 砲兵博物館を出て、その正門前のBTR60によじ登ったりしていた我々の頭の上を低空で通過していくヘリがあった。それは支流を挟んで向 かいにあるサンクト・ペテルブルグ要塞の正面広場に着陸した。あのオウムが所有していたヘリと同型のミリ型ヘリである。どうやら観光客 を乗せての遊覧飛行のようだ。私はこの方、動いているヘリを間近で見たことはない。ましてや乗ったことも。我々が急いで着陸現場に向か った時、ヘリが再び舞い上がった。地上に駐機中はそんなでもないローターが巻き起こす風が、飛び上がる瞬間、フルパワーになり50メー トルは離れていた私の手からさっき買った土産物の入ったビニール袋を引き破り、水溜まりの中を2、30メートル吹き転がしてくれた。1 5分ぐらいして帰ってきた機体に我々はすがりついて、乗り込んだ。チケットも受付もなく搭乗口で現金を渡すだけの手続きだ。ロシア人よ り外国人の方が圧倒的に高く値段が設定してある。ルーブルよりドルが大事なのだ。飛び上がると、なにやら書類を手渡され、パスポート番 号を書けと言う。どうやら落ちたときの身元確認用らしい。死んだ後のことなんか、どうでも良いから、適当な番号を書き込んでやった。窓 の外は小雨が降り出した。どうも天候が安定しない。これは旅行中、ずっとで、夕立と雷鳴の中での旅だったわけだ。空の彼方では、稲妻が 走っている。頼む、降ろしてくれ〜!

ロシア版セーラームーン

ホテルのテレビでやっていた。どうやら英語版に上からロシア語を被せた海賊版のようだ。時々流れるソニーのコマーシャル以外は全く日本 の臭いを感じさせないサンクト・ペテルブルグだが、さすがは日本アニメ。最もロシア人がこれが日本製と言うことを知っているかどうかは 分からないが..


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