2000 GAO4月号 ライ 第118話 西羌との戦いも秦宮括の死により大方片が付いた後の話である。もう相手は南天しか残っていない。ストーリーも大詰めだが登場しているキャラクター達の運命も そろそろ、まとめに入らなくてはならない。激動の時代に生きた彼ら達も、天下が統一されれば又新しい人生が待っているのだ。 今回は二人の人物の将来に焦点を当てた話である。一人は五丈軍で向かうところ敵なしの豪傑・項武ともはや銀河で知らない者はいない天才軍師・師真である。 まずは項武だが、彼が天下統一後にどんな存在になるかは分からない。もちろんとても能吏派とは言えない根っからの武人だが、又、礼節を重んじるいかにも軍 人というのでもあるまい。彼はあくまでも雷という主人に盲目的に慕い忠誠を誓った男であろう。父項焉や師真が期待したように大将軍まで登り詰めて、軍人と して重きを成すとは思えない。彼は多少の学を身につけたとしても、やはり、一侍大将であり、その方が雷にとっても、今後のためにもベストかも知れない。 天下統一後も当然、しばらくの間はその反動やなんかで、そこかしこでの局地戦もあろうし、銀河帝国を南天まで押し広げた結果、更にその外側にある未開地住 民との武力衝突もあり得る。又雷が領土的野心を更に広げたら、全く未知の世界への侵攻もあるだろう。それには常に雷自らの指揮による進撃であり、そして項 武は常に先鋒として、雷の露払いを成すだろう。戦功以外、大した物欲もなく、又それを知ってるからこそ、雷は彼を先鋒に重用するのだ。要は項武という男は ちゃんと評価していてやれば、おかしな気..謀反とか増長の可能性も少なく、それでいて、その戦闘能力を雷は使い切ることが出来るわけだ。 項武にとっての運命は自身の立身出世より、かなり身近の問題、神楽との関係である。散々煙たがってはいるが、姜子昌との仲を知ると、やたら嫉妬心が沸いてくる。 今の彼にとっては、神楽がいるのが当然のようになってしまい、又、その状態を自然に受け止められるようになっている。だからこそ、夢を追い続けてる神楽に対 して、仲良く(?)食事した後、彼は彼なりの言葉で、「お前は俺のところに居ろ!」と言ったのだ。それに対して神楽は項武の首を絞めることで応じているが... 項武と神楽の話はここで終了だ。この後最終回まで、二人の話は出てこない。時間の流れが二人の関係にどう影響したかは不明である。それは最終回までのお 楽しみに。 でもまぁ、殆どの人が考えているような形になっているとは思いますけどね。 この後、李張老師が現れて、雷に覇道の話をするが、雷自身今さらという感じだったのかも知れない。なのに何故こんな件を入れたのかというと、読者に対して 秦宮括が謀反を起こしたのは決して自身の野心ではないと言うことと、それと銀河皇帝という、この広い宇宙に、ただ一人の絶対者が現れることについて、何も 知らない市井の人間ならともかく、その余りにも大きな権力に一部の人間が恐怖を持っていると言うことを描きたかった。前王朝が亡んですでに100年余りも 混沌の世界が続いている。今生きている人間は一人の皇帝が君臨し支配した世界を知らないのだ。(龍緒ぐらいかな?年のことを考えると..李張は年齢不詳だが 、案外その時代の人間だったのかも。)そこに突如現れ、10数年余りで、全銀河を平らげ、皇帝に登り詰めようとする男が現れたのだ。統一過程の興奮が冷め やった後、ふと気付くと自分達が皇帝と呼ぶ男が自分達を支配している..その男が支配する世界は全くの未知と言っても良いだろう。未知に対するお恐れ.. 今の現状を維持したいという焦り、それが秦宮括を狂わせたのだ。このような反動はこの後も規模の大小、五丈の内外構わず現れる。それに対処していって、国 家の礎を築き上げるのも創業者たる雷の仕事なのだ。 雷が南天に戻る話が続く。要は異民族対策と言うべき話ではあるが、ここで雷が単に威嚇して彼らをまとめたと思われたら困る。この後に展開する..後と言っ ても姜子昌の死など一連の騒動が収まり、雷が南征を再開する前後ではあるが、その時の話を見て、いわゆるアメと鞭の政策を見て欲しい。被支配民族を最終 的に心酔させるにしても、きっかけはやはりアメと鞭である。 今回のもう一つの焦点である、師真のこの後の運命が描かれる。イヤ、別にここでどうなるかと言うことを具体的に描いているわけではない。又、一般読者もそ れに気付く人も殆ど居ない。それでいいのだ。これはあくまでも作者が読者にここを走って下さいというストーリーの線路ではなく、カタンコトンと一定のリズ ムで続く線路の継ぎ目が一瞬不定期になった..そんな感じで受け取っていただきたい。その不定期な継ぎ目の間隔が遠い未来、何を意味するのかはまず誰も分か らないだろう。 以前も書いたような気もするが、この銀河戦国群雄伝という話は、雷が皇帝になる瞬間で終わってしまう。つまり、その後の話は一切無いというわけだ。雷がど んな皇帝になったかとか、二代目は無事梵天丸が引き継げたのかとか、功臣達の運命とかは何も語られず、それこそ、作者の頭の中と読者の想像の中にあるだけ だ。ただ匂わせるというか、想像のネタというかは提供するべきだ。コレが本物の歴史物なら、読者は大抵その人の運命を知ってるわけで、「コイツ、後で謀反 起こして磔だぜ」とか「実はこの王朝15年しかもたんのや」など言えるだろう。作者もそれを見越しての伏線も張りやすい。しかし、架空歴史ではそうもいく まい。しかし、伏線は張っておくべきだろう。しかもジワジワと。 で、その師真の運命であるがどうだろうか?一番有力なのは、第一人者皇帝によるNO.2である丞相の粛清である。これは今さらくどくど言わずとも、歴史が 証明してくれていよう。それほどNO.2が生き残ることは難しい。師真や姜子昌のように友人という間柄であってもだ。ましてや、そのNO.2の人間の功績 が大きければ大きいほど、疎まれてしまうのだから、悲しいモノだ。なぜか?これは難しいことだが、第一人者の心情の変化というモノがあるのだろう。攻め続 けて天下を取った後、どうしても転じて守りに入ってしまうとか..守りというのはいわゆる体制維持である。その体制とは竜姓の男による絶対君主制であり、 中央集権国家である。つまり雷の息子達に全権力を引き継がせていく体制だ。雷が自分の血というモノにどれだけの関心があるのかは分からないが、体制維持と 言うことを考えると、どうしても血を意識しなくてはならないだろう。つまり異姓の王者が出ること自体、その王朝は崩壊していることになり、やがて次々と王 者が乱立し再び混沌に戻ると言うことになるのだ。その異姓の王者の筆頭に当たるのが、NO.2の男、しかも功績大の人物だ。 では王者は何故守りに入ってしまうのか?それは自分自身の天下取りの行程を見ているからである。前王朝の血筋を途絶えさせ(これは雷がやったわけではなく、 更にその前の弾正ら他の群雄達の仕業ではあるが..)自分の使えていた主君や上司を出し抜き、いわゆる下克上で勝ち取った天下である。今、外の敵は全て亡 ばしたわけで、次に憂慮するのは内なる敵、自分と同じ様な下克上を目論む連中であり、その芽である。 独裁国家では当然、第一人者たる皇帝が全権力を掌握している。しかし、功績がある家臣には地位や俸給(領土も含まれるが、それはその地の税を与えると言う ことであり、家臣をその地に封ずると言うことではない)で応じなくてはならない。地位が上がればその地位に相応しい権力も生まれる。その地位が高ければ高 いほど、功績が大きければ大きいほど、皇帝の持つ大権に近づいてしまうのだ。絶対権力を持つ皇帝にとっては笑って済ませれるかどうかは微妙なところであろう。 雷自身が歳を取って、国家を担う重圧が重荷になっていくと、その重責をNO.2と分かち合うかも知れない。(しかし、普通はその頃までに皇太子が立派に成 長してくれてるはずではあるが..)だが、雷はまだまだ若く、自ら国勢に当たる意欲満々なのだ。責任の放棄は権力の放棄と一致する。今のところ雷はそんな 気は微塵もないのだ。 以前師真はライバルでもあった骸延の没落を目にしている。自分が仕組んだ反間の計だが、それが自分の身に掛かってくるかも知れないのは覚悟しているだろう。 今は、雷は師真を必要としている。しかし天下統一後はどうなのか?進む道を教える戦略家はいらないのだ。道は終着駅に着いてしまっている。国政の知恵の様 な戦術的なことなら、学識があるモノなら、そこそこの人間でも担っていけるのだ。師真が一歩も二歩も他のブレーンより抜きんで居たのはこの戦略があってこ そだ。今、統一も成された雷王朝の中で、彼の立場は過去の大いなる功績によって、位人臣を極めた家臣として存在するだけになってしまう。きつい言い方かも 知れないが、雷が戦略を求めない限りはそうであろう。そうなれば面白くないと思う輩も出てこよう、先も書いたような皇帝雷の心情の変化も有ろう。楔を打つ のはたやすくなる。 なれば師真はどうすればいいのだろうか?骸延の際、「そう言う世渡りも軍師として必要だ」と語った彼だ。雷はあの時聞き流したかもしれないが、師真自体は 「走狗煮られ」を軍師の運命として、覚悟していたのかも知れない。あの天才のこと、何か手を打つのだろうか?それともジタバタせず、天寿を全うすることな ど考えずただただ邁進するのみだろうか?華玉という伴侶を持ってその考えは変わるのだろうか? 雷は師真の前で泣いた。最愛の妻を亡くし、悲しみのどん底だったはずだが、涙一つ見せなかった彼が師真の前なら平気で涙を流したのだ。このシーンを読者が どう捉えてくれても構わないと思う。友情などと言うモノでは一括り出来ない二人の仲に感心してくれても良い。雷の涙に人間性を見つけてくれても良い。紫紋 との仲を思い出してくれても結構。しかし、本当のところの作者の描きたかった意図は、雷と師真、第一人者と、そのNO.2のこの後の運命の伏線なのだ。 ところで、師真が語った「男が泣いていけないと誰が言った、誰が決めた」と言うセリフは、某ロックマンDUSHのゲーム挿入歌から引用した。何となく印象 に残ったフレーズだったんで....許せカプコン! | |
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