1999 GAO12月号
ライ 第114話


年も押し迫り、何かと2000年だ、ミレニアムだ、Y2K問題だと騒がしい。けど、それについて声を 挙げているのは、それらから幾ばくかの利益を受けられる連中だけのような気がする。だから、私には何の感 慨もない。一時期あった終末信仰も無神論者なので関係ないし、ただただ一年歳を食って行くだけのこと である。 それにしてもテレビのカウントダウン騒ぎは酷かったなぁ。とにかく騒ぎたい、視聴率に繋が るだろう物に飛びついて行っただけの実に不愉快な放送の連続だったぞ。

所で、この時期になると、出版社の忘年会の通知が来たりするものだが、今年はメディアワークスは無しで ある。正しく不況が身に浸みると言うとこか。もっとも人のページ数まで減らして、飲食にかまけてたら、 お偉さんの頭の皮を剥いでやるとこだが…新年会をやる予定だと担当の安藤氏は語るがどうだろうか?な んだかその昔、少年誌に編集方針を転換して失敗、その後忘年会を開くことすら出来ずに廃刊となったキ ャプテンを思い浮かべる状況だ。どっちにしろ、好ましい状況ではない。

話は変わるが何でも今やってるGAOのアニメの「リスキーなんとか」では、画面の至る所にGAO!G AO!のオンパレードだと聞く。見ている側も鼻について不愉快とはガンダマンの感想。 わたしゃ、何 も言いません。ハイ…

前置きが長くなったが、114話目の制作日記だ。正直、書くのに気が重い話の連続だが、今回の話を書 く前に先々月号辺りから続く、この五丈首都の攻防についての企画意図なんかを書いていこう。

まずは何故、ここに…雷の天下統一が目の前と言うところで、この話を入れなくてはならなかっただが、 それについては、かなり以前からの話をしなければならない。まず、この雷の話を描き始めて二年経った ぐらいの頃だ。弾正の南征が失敗に終わり、又その弾正も病に倒れ、五丈が騒然としてきた辺りだっただ ろうか。ここらから、我らの主人公、竜我雷のストーリーの始まりであった。ドカベンで言えば柔道編が 終わり、山田太郎が明訓高校で、野球をスタートさせるような頃と同じである。雷が政権内の権力闘争に もみくちゃにされそうになりながらも確かな一歩を踏み出した頃だった。この時期には私の頭の中には細かい 所はともかく、雷は軍師、師真を得て、狼刃を倒し、骸羅政権をも滅ぼし、新生五丈の国主となり、竜王 を名乗るまでの基本的ストーリーが完成していた。同時期に放映されようとしていたアニメも、だからこ こまでは、私の息の掛かっている部分である。さて、それから先はどうするか…一つは時間との戦いであ る。私は色々マイナーの雑誌を渡り歩いているから、その雑誌の寿命というのがやはり気になる。マガジ ンや、サンデーのような大手雑誌とは違い、経済基盤の小さいマイナー雑誌はどうしても、雑誌としての 寿命は短い。又逆に小回りも利くと言うところもあり、売り上げが怪しくなると、仕切直して一から作り 直そうというのが得策と言う考えが浮かんでくるものでもある。又、休刊、廃刊にしなくても雑誌の購読層 をガラリと変えたりとがある。また、以前ライを連載していたコンプのように、しょうもない経営者のト ラブルによって、消えていく場合もあるのだ。あの時点で産まれたばかりのGAOの将来について保証で きる物は何もなかったと言っても過言ではあるまい。角川歴彦社長の個人的繋がりで、バンダイなどのス ポンサーの援助と主婦友社との営業提携は得たものの、メディアワークス誕生時の原稿持ち出しのトラブ ルによる、角川本社側からの訴追裁判、又、何としてでも新雑誌を潰せとの直命まであったとも聞く。勿 論本屋での棚のも小さく、あるのはコンプ時代の再販物ばかりでは厳しいといわれとも致し方ないだろう。 純粋に漫画だけ描いていればいいと言うものでもない。連載途中で、雑誌が潰れてのバタバタは先のキャ プテン休刊後の掲載漫画の末路を見ても明らかだし、それに巻き込まれるのもまっぴらゴメンである。つ まり、ライはなるべく話をコンパクトにしなくてはいけないと言うのがマイナー雑誌故の至上命題であった。 (その割にはドンドン長くなって行ってるような気もするが..)

雷が五丈王になって、ようやく路半ばになった感じである。これから、本当のライバル、羅候に正宗と激突 するわけだ。つまり三国時代の到来なのだ。その後のストーリー展開はどうするか?我々の良く知ってい る三国志でも、又日本の戦国物でも互いにつばぜり合いを続け、勝ったり負けたり、あるいは手を結んだ りと、しのぎを削り合い、やがて天下分け目の大決戦が繰り広げられ、勝敗が決する物だ。しかしこの三 国でこれをやったらいったいどれくらいかかるのやら…絶対安定の本なら悠長に長期連載をかませるが、 GAOではとてもというのが現状だった。なるべく話は圧縮しなくてはならない。その中で、盛り上げ、 涙あり、笑いありの話作りをしなくてはならない、しかも三国まとめてである。こうして、三国のうち、 智の国では国勢が大きく傾く中での正宗の発病、雷との一騎打ち、そして戦死、智国の崩壊という筋立て が出来る。同じく練は智国に代わって強大となり、空前絶後の兵力で雷に挑むという話となる。そう、両 国とも雷が五丈の王位に就いた時にはすでに決戦の構えであったのだ。

対骸羅戦で見せた軍師師真の力というのを更に読者に見せる必要もあった。彼がここまでに披露した見せ場 的な天才ぶりは、まだまだ足りていないと言うのが作者側の考えだ。やはり圧倒的な敵を相手に頭のひら めきで、一蹴する、これこそ天才軍師の見せ所であろう。孔明が数ある軍師の中で人気がダントツなのも ここにある。 

師真は天才ぶりを遺憾なく発揮して、正宗と羅候を撃退する。そこまではいい。しかし、このままで良いの だろうか、勝負は、戦争とはそんな物ではない。常勝などあり得ない。ハンニバルもカエサルも信長も痛 い敗戦を被っているではないか。やはり天才軍師破れるって言うのがあっても良いんじゃないか。なれば どうすればいいか。確かに六紋海の戦いで、敵将姜子昌にあわやと言うところもあった。しかしこれはあ くまでも戦術的な部分に過ぎない。とは言っても戦略的にポカして羅候とかが盛り返してきても、先にも 書いた時間的な問題もあり、困るのだ。私にシーソーゲームを描く贅沢は許されないのだ。こうして浮上 してきたのが、斉王都での悲劇であった。つまり、時間的な制約+ストーリー的な変化と盛り上げを 考えた末の話だったのだ。

アニメでは、苦戦中の五丈軍が退却することで起きた斉王都の悲劇であった。このストーリー構成を考え たのは私自身であったため、当然原作もそれで行こうと考えていた。つまり斉王都の話と六紋海の話を前 後入れ替えていたのが最初の構想である。その方が自然である。又全体の流れから言ってもちょうど真ん 中に当たる時点で悲劇が入り、雷が立ち直り、宿敵を倒すというのが流れとしてもベストであろう。しか し、それでは先に書いた師真の天才ぶりを発揮する部分が遅くなる。確かに五丈平定後には居ながらにし て三路を防ぐというのもあったが、これはどっちかというと地味な類だ。やはり読者を満足させる大立ち 回りが必要だ。しかも相手は正しく宿敵二人だ。又、これだけの相手を向こうに回しての戦いになると、 何回も描ける物ではない。格闘物のように次々と強い敵が現れると言うことは出来ないし、それをやって たらキリが無いだろう。こうして、路半ばではあるが、六紋海と開封の戦いは、実質的に最終回前にある 決戦と同じになった。こうして、順番が入れ替わってしまった斉王都の悲劇であるが、戦略的には、六紋 海で大敗を喫した南天側の策謀と言うことで形は付く。では誰が斉王都を襲うのか、動けない南天に代わ って、その大役を果たすのは誰か? ここで、西羌の存在がある。元々西羌王国は三国に分割されて、互 いに牽制されていて動きの取れない大国の間にあって、キャスティングボードを握る存在として、対骸羅 戦の折、用意した国だ。狼刃の配下五虎将軍が西羌の国境に配備されていたという設定が役に立った。三 国志にも胡とか呼ばれた遊牧騎馬民族や、南蛮、山越と言う少数民族が登場する。決して主人公格にはな れない脇役的な国だが、三国が彼らと結んだり、又、争ったりで、物語を濃くする役割がある。現在、雷 の世界の中で、存在が公になっているこの手の脇役国は秦宮括率いる西羌王国しかない。又、上手いこと にこの国は五丈の背後にあるという設定だ。だからこそ、雷は後顧の憂いを経つため、様々な外向的手段 を取ったり、弟秦公旦を人質兼用で召し抱えたりしたのだ。又、この国には秦宮括と言う、銀河でも一、 二を争う豪傑もいる。正直、私はこの秦宮活の扱いのやや窮していた部分がある。彼のモデルは誰でも分 かるとは思うが三国志の馬超である。彼は曹操に親の弔い合戦を挑んでいた頃は素晴らしく光っていたの だが、その後国を追われ、劉備の配下になってからは、何とも冴えないのだ。二頭、相並び立たずと言う か、飼い殺しにされた英雄と言うべきか…最初はこの秦宮括を雷の幕下に入れようかとも考えたが、少々、 扱いにくい。こーいう豪傑タイプはもう雷の配下に大勢いるし、目新しさもない。彼も又馬超の様に一線 画した立場にいて、その魅力を発揮するべき男だ。又、雷と同じ英雄の一人でも、何の違いで、勝者と敗 者になるか対比すると言うことも誌面で表せるかもしれない。この頃になると、雷がどうして、ライバル にうち勝っていったかを描かなくてはいけなかった。軍事力で勝っていくのではない。勝者が、支配者と なるべき男が持っている天佑と言うべき物を見せていくのには、秦宮活はおあつらえ向きの当て馬なのだ。 こうして、反逆者、秦宮括が浮上してくる。彼は馬超ではなく、漢、楚の戦いでの黥布の役割を求められ たのだ。

さてと、前置きはこのぐらい(にしては長かったが)にして、本編に進もう。イキナリ、宦官のボス、王 福来が斬られてしまう。彼は梨扇の後宮での暗殺騒ぎで初めて登場したわけだが、結構気に入っていたキ ャラだ。あくまでも、紫紋や麗羅の守り役であり、政治的な部分は全然なかったわけだが、ちょっと殺す には惜しい男だった。只、この後に、目立った活躍の場も無く、城から逃げ出した後には彼の役を三楽斎 が代わってやるわけで、悲劇の強調役として、死んで貰った。

ここで、三楽斎や紫紋らの逃げるルートだが、よく、時代劇とかで、落城シーンとかがある時は、どのよ うな所を通って逃げるだろうか?よくあるのは建物の外周を渡っている廊下を逃げるシーンなんかが思い浮か ぶのではないだろうか。紫紋らは後宮のある内宮で三楽斎と合流している。ここからどーいうルートで、 逃げればいいのか?又どうすればそれっぽく見えるだろうか?又演出的に適うだろうか?因みに古今東西 城という物は、わざと内部の構造を複雑にしている。至る所に胸壁や出城を建て多くの門が配置されてい るのだ。それは、当然敵の侵入を拒むためだ。よく城の中に内通者を作るのは、何にもまして、この迷路 を攻撃側が把握するためである。紫禁城をはじめとする中国の代表的な王宮は、一見巨大な本殿のみがデ ンとあるような印象があるが、案外周りは官僚達の部屋とかが多く建てられていて、一種の官庁街のよう になっているのだ。そこら辺は視界の効かない高い塀と、所々にある門などで、まさに迷路状態。最初は 屋根のある部屋の奥の奥に逃げさせようとも思ったが、それは前回見せてあるので、今回の逃亡場所とし て、この狭く、迷路状の官庁街を選んだ。 しかも孟閣が大立ち回りをやるためにもこーいう狭くて通り 抜けが出来ないところに限る。しばらく紫禁城なんかの資料と格闘して、大体のイメージを作ってから取 り掛かった。

ああっと、その前に梨扇と華玉の話があったな。特に梨扇は好きなキャラだったので、失うのはとても悲 しい。でも彼女はいくら紫紋公認とはいえ、雷の不倫の相手。正式に愛妾ならともかく、やはり許されな い仲であったのだから、ここで死ぬしかなかったのかもしれない。彼女も自分の役割を分かっていたのだ ろう。雷との簪のやりとりを入れたのは、本当は回想としてではなく、雷の南征前に実際に入れたかった のだが、ページの都合上、省かれていたエピソードをこういう形で復活させたわけだ。こうしてみると、 結構雷のお気に入りとなって、何度か床を共にしたような気もするね。そこら辺は同人誌の方で。途中で 忍者服にしたのはご愛敬だ。アニメとかなら、格好良く見せれるのだが、こんな物か。

どうでも良いことだが、ここら辺のセリフで「妻」と書いてあるのは私が最初ネームで「妻君」としてた のを、編集サイドが「敵の女房に君はおかしい」と言い出したので、外したものだが、何故かルビは「さ い」のままである。「さいを探せ!」だって。おかしいとは思わなかったのかな、安藤さん。最近アンタ、 ルビの打ち間違いが多いよ。詔勅を「ちょくし」何かと読んでるし、校正でチェックを入れてるのに直し てなかったりと、今度やったら、頭丸めて貰うからね、髭も。

華玉は地下の物置に隠れているところを捕まるが、彼女には捕まる五丈の高官の代表となって貰った、か わいそうだけど。最初は混乱の仲、神楽と共に脱出するとか、(西羌兵に乱暴されそうになる領民の娘が コレに代わった)紫紋らと行動を共にするとかの案もあったが、人それぞれの運命と言うことを考えると、 こーいう形になってしまったのだ。公叔との対決というのもあったしね。

さて、ここで、一番最初に頭の中で描いていた孟閣と紫紋の最期の場面を紹介しょう。はっきり言って孟 閣は大体同じである。違うところと言えば、死守する所が本殿入り口の大門であり、公叔の道連れシーン が無かったところであろうか。紫紋はその後ろの本殿の中で息絶えることとなっていた。敵兵に追われ、 本殿に追いつめられた紫紋、麗羅、蘭らん、三楽斎一行。屋敷は火を掛けられ、紫紋は矢で足を負傷する。 一緒に逃げようとする麗羅の懇願を振り切り、城に居残り、迫ってきた秦宮括と対面するというわけだ。 秦宮括は何とか助けようとするが、紫紋は短剣を振りかざして、それを拒み、炎の中で、雷に対して最後の 舞を舞い、火に巻き込まれる。...というのが最初の案であった。一見劇的なのだが、色々問題もあった。 一つはアニメの話。いや、アレを見ていて、やはり紫紋が死ぬ時は、雷の腕の中で死なせてやりたいと思 ったもんで。途中退場を余儀なくされてしまうヒロインだ。せめての手向けであろう。もう一つは焼死が 嫌だったこと。見た目は火に巻かれるなんて、劇的なもんだが、後に焼死体が残るのは嫌である。等々、 どちらかというと作者本人の甘さ的なものでコレは却下されたのだ。他にもスケジュール的なものもあり、 斉王都の話を今回で何が何でも終了させようとしたことも一因かもしれない。ちょっと、雷側の方を長く 放って置きすぎた懸念があったのだ。う〜ん、けど、今考えたら、紫紋の意志の強さ、天下人の妻はこう あるべきとかを考えるとこの最初の案が良かっただろうか。かなり、長々と構想を温めていた割には、土 壇場でころっとひっくり返したようになってしまったな。う〜ん、う〜ん... 

気を取り直して..まぁ、とにかく、紫紋には負傷して貰う必要があった。矢傷でも良いんだが、ちょっ と、きついかと言うことで、爆風を選んだわけだ。しかし後になって、気付いたのだが、これはアニメと 同じだな、とほ〜。

紫紋の死を後送りにしたので、残りページを五丈きっての宿将、孟閣に絞り込むことが出来た。所詮32 ページ足らずでは、主役クラス二人の死を描くのは不可能と言うことだろう。求む!ページ数50復活!

とは言え、ページ不足だな。もっと、ここで雷のために死ぬことを喜ぶ孟閣も入れたかったのだが、結構 早めに蜂の巣になってしまった。ここら辺はちょっと、単行本での書き足しが必要だろう。孟閣という男 は、やはり基本的には、古い男である。師真らの持つ革新性や、三楽斎ら能史派的な世渡りも苦手、武功 一途の男であろう。自分でも言っていたが、彼にとって天下統一後の世界など、眩しすぎてとても住めた ものではない。おそらく、雷王朝の中では重臣としての地位を占めるだろうが、そんなモノには興味はな い。そして、自分の跡継ぎである息子孟起は雷の陣中ですでに嚇嚇たる働きぶりを示している。もう 何の憂いもない、最後の槍働きがしたいというのが彼の心中だろう。雷の副将という地位が彼にとって、 最も輝かしい時であったのだ。そーいう思い出に浸りながら戦う姿を見せたかったのだが...

ここで余談だが、孟閣というキャラは実はアニメの「クラッシャー.ジョー」の中に出てくるマーフィ. パイレーツの幹部4人衆の中の一人がモデルだ。名前、なんて言ったかな?ちょっと、手元に資料がない のでわからないが、だからアニメでも、カセットブックでも声優さんはこの海賊幹部と同じである。雷です ら声優を入れ替えたりした中で、常に同じであったのは、この孟閣と狼刃と鳳鳴だけである。まぁそれだ け、キャラクターの性格などが固定されてたんだね、私の頭の中では。

公叔もここで死ぬ。しかし、このために、その後、西羌軍に軍師的な人間が居なくなり、ちょっと困って しまった。野武士的連中ばかりでは話が進まないのだ。たとえ進言とかしなくても、秦宮括にまともに反 論できる人間を残しておくべきだった。けど、憎まれ役には違いないので、ここで孟閣の道連れにするこ とで、読者は少しは溜飲を下げてもらえただろうか?



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