1999 GAO4月号
ライ 第107話


今回は製作日記に入る前に、去年の夏明けぐらいから続いていた、第2次原稿紛失時件の一応の手打ちについての報告を。初めての人は 分からないかも知れないけど、その経過については、過去の製作日記を読んでよ。まぁ簡単に言うと過去にも大量の原稿紛失をしでかし たメディアワークスが懲りずに、またまた、やってくれて、その事実が、ライの100話記念の企画の時に発覚してくれたというわけ。全 く、せっかくのめでたい話題にしっかり影を落としてくれちゃって..いかに、この会社の原稿管理がいい加減か、本当に身に浸みたよ。 賠償だ、謝罪だ、処分だと色々すったもんだがありましたが、この度の社長との2回目のご会食で一応のケリを付けたというか..最終的な結論 として、俺が強く処分を望んでいた、書籍の当時の原稿管理者に、ようやく、ペナルティが課せられたと言うこと。しかしこの最終時点 でまたやな話聞いちゃったよ。それはさ、この管理者の事情聴取の時に出た言葉、「移動になったので分かりません」..このセリフ、 何かトラブル起こすと必ず出て来るんだよな。それこそ宿題忘れた子供がするいつもの言い訳みたいにね。要は引継も何にもやってませ んってことさ。ましてや原稿管理者にとって、生原稿が帰ってませんて言うのは凄く重大問題じゃないの?それを、私担当が変わりまし たからって..あなた方の頭の中には責任という言葉は入ってないのと言いたい。とにかく、社長との会食自体は、美味しいワインとス テーキで、和やかに進んだ訳。これからは原稿は極力データー化して残し、生原稿は各作家さんに返却するとのこと。こっちとしては、 毎月原稿を返してもらってるから、もう関係ないけどね。しかし本当に今までの原稿をデーター化できるのか?最長のライを除いても莫 大な量だぞ。何でもマシンは入れたそうだけど、それこそ専門の人員を入れて一年掛けての作業になると思うし、今の会社がその為に新 規に人を増やすとも思えないし、結局は誰かが兼任する事になるね。それじゃいつまで立っても無理だな。それにさ、俺ならともかく、 他の作家さんは原稿返されたら困ると思うよ。実害が出ていないのなら、邪魔になる原稿は編集部に預けとくのに限ると思う。俺自身、 あまりの量に、仕事場には置いとけず、全然使ってない、自宅マンションに置いてるんだもん。こういう事情もあって、データー化計画 は、そのうち聞かれなくなると思うな。時が経てば風化するのが世の常だしね。でも他の作家さんも原稿の管理には目を配った方がいい と思うな。特にカラーは取り返しが付かないぞ。勿論、CGなら自分トコでバックアップ取れてるケドね。俺CGでライ描くのいやなん だよなぁ。アナログ人間だし..

そうそう、最初の方に書いたメディアワークスのいつもの言い訳の「移動になったので分かりません」だけど、コレをそのまま地で行く 事件があったよ。ついでだから実例として紹介しとくよ。これまた100話目の企画として、巻頭カラーのイラストを使ったTシャツを 読者プレゼントにしたわけ。しかし未だに当選者に届いてな〜い。二月の頭だったか、この事が当の当選者の書き込みで発覚、すぐさま 担当を通じて小言を言ったら、お馴染み、元担当の佐藤氏が登場し、ご丁寧にも掲示版にお詫びを書き込んでくれた。その時の言い訳が 「移動に..」だったわけ。ほんとに、もう..コレって一月前のことなんだけど、未だに当選者にブツは届いてないそうな。本当に作 ったのかぁ?しょうがないので編集長に直接文句言ったら、今月中に発送しますだって。何で明日必ず発送しますって言えないのかな。 宅急便なり、郵便小包なり、すぐにでもできることじゃない。それともまたまた、お役所仕事でハンコをペタペタ押さなきゃダメなのか ねぇ。第一、俺、そのTシャツ見たことないや。

ハイハイハイ、もう愚痴は止めて本来の製作日記に戻りましょう。今回の話はじり貧の南天軍と、息上がる五丈軍との、南天領土での、 初めての本格的な会戦だ。とは言え姜子昌を欠いた南天軍はまともな戦術など無く、ただただ数を頼みに押して行くしかない。描く方に とっても頭を絞ることもないのだが、今回重要なのは、その戦いの中で見せる南天の軍制とか、統率力、それを五丈と比較することにあ る。一読すれば解ることだが、五丈に比べてあからさまに非人間的だ。前回、羅候が兵士を略奪品で釣ったのを合わせると、いかにも野 蛮で原始的なものに見える。コレでは統一に燃える五丈に勝てるわけがないと。だがここでその南天を野蛮とか、劣ってると決めつける ことは出来ない。戦争そのものが非人間的であり、兵士を物扱いするのだ。昔、ライは弾上の、そういう態度に怒って、乱闘騒ぎを起こ したこともあったが、今、王となり、人を支配するようになって、弾上に共感しているだろう。また、兵士の大半は農期を捨ててまで無 理やりの徴収で集められた農民である。ライが林に言った言葉通り、支配者が誰であろうと構わないし、ライが領土を増やそうとも間接 的な利益とかいわゆる「おこぼれ」以外彼らに得になる物はないのだ。彼らにとって、まず第一は五体満足での除隊なのだ。古代ローマ軍の 兵士は、選挙権を持つ市民だったので、将軍や、執政官は彼らへの利益配分に気を配ったが、ライの世界では兵士はいわゆる戦闘奴隷で あり、志願兵も当然いるが(雷はそうである)多くは失業者であり、一攫千金を夢見た若者であっただろう。昔、始皇帝が率いる秦の軍隊では、 敵の首一つで爵位をもらえたそうだ。戦功イコール社会的地位の向上に繋がる。まさに物で釣ったわけであるが、おかげで秦の軍隊はわ ずか数年で他の六国を併合し、あの広大な中国大陸を統一できたわけだ。始皇帝を雷のモデルと考えてる俺にとっても、この秦の軍制改 革を唱えた商鞅の兵法書、商君書は必読の文献であり、結構ここからネタを拾っている。面白いことに、いかにも善人面した、三国志の 劉備玄徳も、自分の息子への遺言として、この商君書を薦めている。勿論、その実行についてはその人の人柄が出るわけだが..一寸先 の話で申し訳ないが、後に皇帝となった雷はこの政策を一変させる。コレはあくまでも戦時の政策なのだ。確かに自分はその政策のおか げで皇帝まで登り詰めるのだが、逆に平時となった時には、二度と自分と同じ風雲児を輩出するわけにはいかないのだ。ここら辺は漢の 高祖に近いのかも知れない。五丈の方でさえコレなのだから、更に厳しい身分制度や多民族性を抱える南天では酷薄にも見えるのだろう。 戦争がイデオロギーや信仰、そして愛国心で兵士を動かせるのはつい最近からなのだ。だから羅候の取った兵士への態度も、戦い方も決 して極端なものではないのだ。まぁ、一般の読者から見ると、こーいう態度じゃ雷に負けちゃうよって取れるだろうが、俺としては民族 性の違いとぐらいしか考えてはいないんだけどね。勿論、単純に羅候はバカだと思ってくれても、そんなに差し支えはない。こーいう設 定を漫画の中で見せるのは、少年誌読者には馴染まないと思うし..

さてさて、最初の8Pは、戦艦戦艦の嵐。キャラが一人も登場しない珍しい始まり方だ。あえて意図した物ではないんだけど、終わりが 近くなってくると色々やってみたくってさ。ご存じの通り、俺は戦艦を描く時、元になる各パースの原画を作って置いて、それをコピー し、加工して貼り付けるという、松本零士方式なわけだが、当然、良いパースが無い時は新規で描かなくてはならない。今回もそれは 結構あったのでしんどかった。タイトルページの帝虎や、金剛、それに合わせるパースの他の戦艦などがそうだ。それにしても金剛は初 めてまともに登場したんじゃないだろうか。基本的にはアニメ版の設定であるが、艦橋など一部の構造物は変えてみた。旗艦と言うこと で電探の配置などを他の船と変えてみたかったのだ。余談になるがライの世界では最初の頃は電探を使用しているシーンが多々あったが 、いつの間にか、使用されなくなった。大きさから見てアレは捜索用電探なのだが、あると夜襲とか、奇襲てのが出来なくなってしまう し、何よりもライの世界にはそぐわないと思ったからだ。やっぱり自分の目で敵を捜す方がいいだろう。それと同じ理由で無くなったの がいわゆる無線。いつの間にか、遠距離には使者を送って書簡で、近距離では信号灯や手旗になってしまった。昔の合戦が銅鑼や太鼓の 音で指揮統一をしてたわけなので、それに習ったわけ。確か狼刃との一戦の時や、項焉の死を告げる時は艦内放送みたいなのをやってた けど、それもなるべく減らしている。雷がマイクを持つのも一寸変だしね。そういやアニメの時は伝声管を使っていたな。絵的には格好 良くないんだけどね。演説ぶつ時なんかは。話を電探の話に戻すが、使わなくなったんだから、いらないじゃんって事になるんだが、やっ ぱり、ヤマトアルカディア号世代の俺としては、艦橋の上に何も無いのは寂しいのだ。正面から見た時、ピラミッド状に積み重なった 構造物のてっぺんに、横長の構造物があって初めて安定しているような気がする。けど、外見上、電探に見えるわけで、そこら辺を読者 に「何でレーダー持ってるのに敵に気付かんの?」と突っ込まれたらマズイので、一生懸命、理由を考えてみた。対空気流ソナーだとか、で っかい聴音器だとか、色々あったのだが、どれもうまくない。とうとう諦めて、「アレはデザイン状の理由だけで付けてます」と開き直 ることにした。だから、読者の皆さんも見て見ぬ振りして下さい。要はライの世界では宇宙戦艦というハイテクマシンに乗ってはいるが やってることは大航海時代の帆船と同レベルと言うこと。それ故、風を食らったら揺れるし、雨も被る。速度を上げると波飛沫も起きる のだ。後半の戦闘シーンでも分かるように外れた砲弾は水柱状に炸裂するようにした。まぁ、漫画ならではの作画であり、アニメでは苦 しいかも知れない。あっけどね、アニメなんかでも宇宙船をこうした現代の船の様に見せてくれるシーンがあると凄く嬉しい。古くは ヤマト3で見せてくれた潜宙艦。異次元空間に潜航するというアイデアもやられたと思ったけど、潜望鏡を上げたり、水上(?)航行する 時に波かき分けたりと、サービス満点だ。ああいうのを見て、そんなことあるかと言わないで欲しい。視覚的に楽しければ何でもアリな のだ。他にも、マクロスでゼントラーディの戦艦が確か土星の輪の中を航行するシーンだったと思うが(初めてダイダロスアタックをす る話だったかな)輪を構成する岩や氷を、かき分けていたね。かっちょいい!視覚的効果を言えば最近の雷はやりたい放題なんだけどね ぇ。

師真が説明している南天軍の3つに分かれた陣形、これはオスマントルコなんかのイスラムの国がよく使う陣形だ。不正規軍(主に占領 下の国とか属国化している国から抽出された兵員で構成)正規軍、イエニチェリ(占領下のキリスト教徒を改宗させて作ったスルタン直 属の親衛隊)で軍団を組み、最初には不正規軍がぶつけられ、そして正規軍、その後ろを逃げてきた者を容赦なく殺す、イエニチェリが 半月刀を構えて督戦するというのが、トルコ帝国の戦い方だ。このやり方は途方もない損害も出るが、人間の値段を安く考えている国に は効果的であろう。質で量に対抗すると言うが、その量が半端でなければ質の優位も揺らぐというわけだ。形は違うが姜子昌が六紋海で 取った対師真用の策も、基本的には、力でねじ伏せるという方法だったというわけで、こういうのが南天の戦い方なんだろう。しかし1 .5倍ぐらいの兵力差ではちと苦しいかも知れないな。帝虎級戦艦を一個軍団と計算しないと辛いね。

英真の処刑シーンとその救出方法だが、ページを掛けた割につまらん出来になってしまった。うーん、何かこう、面白いハッタリを考えて みたんだけどなぁ。師真が出向いて啖呵切るのも考えたけど、一寸なぁ..姜子昌や龍緒など、現実派で羅候を諫める人間、みんな置いて 来ちゃったからね。失敗失敗。どうでもいいけど、最近ライの世界では、こうやって甲板でわめいても、敵さん側に聞こえることにしてい る。何でや、と言われても困るが、コレを映像や無線使ったりしてたら、やっぱし、おかしいだろう。戦艦の所でも書いたが、この漫画、 ハイテクメカが出ても実はアナクロで、宇宙でもありながら、三国志などの地上の合戦と同じレベルで描いてある。だから彼我距離28 000bでも、イメージ的には数十b先なわけ、だから羅候の声が届くってね。アニメじゃこーいうハッタリは一度もやってくれな かったな。ノーミソ足りない連中に発想を広げろって言うのが無理だけどさ。

この後、しびれを切らした羅候の命で突撃を開始した南天軍と迎え撃つ五丈軍との合戦となるわけだが、前回も書いたが、この会戦は戦 闘そのものを描くことには重点を置いていない。あくまでも次の姜子昌復帰のための露払いである。と言うわけで戦闘シーンはサクサク とこなそう。とは言え描くのは相変わらず、めんどくさいんだが..

最後にホントにどうでも良いことだが、お終いの方の羅候のセリフ、「グニャグニャ兵士に渇を入れてやれ!」ってやつ。あれはね、昔 読んだロシアの昔話の「せむしの子馬」って物語で、海底に沈んだ指輪の入った宝箱を、キンメダイがニシンをたくさん集めて持ち上げよ うとしたんだけど、箱が重くて動かず、ニシンの腹が割けるばっかりって場面があるのだ。そこで怒ったキンメダイが 「グニャグニャニシンめ、鞭でも食らえ!」って叫ぶの。子供の時から何故かそのセリフが気に入ってて思わず使ってしまった。いや、ホントにどうでも いい話。...おそまつ!




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