1999 GAO3月号
ライ 第106話


ライ製作日記106話目 1999年、いわゆる世紀末の年、ライ最初の仕事である。去年末よりのバタバタしたスケジュールと、正月よりうち続いた スタジオかつ丼恒例のおでん大会、そして遅れまくってる作品集の直しなんかで、またまた、製作スケジュールは押しまくっ ている。今回も、担当の安藤氏を泣かせそうである。

今年はライにとっても、ラストを締めくくるためにも大事な年である。クライマックスに相応しく、相当数の血が流れ、長年親 しんできた、思い入れ深いキャラと永久の別れをしなくてはならない。特に物語の中で、互いに愛し合ってるキャラ達を失 うのはやはり辛い。このまま現状が固定され、何もなく過ぎ去ればそれに越したことはないが、時代は容赦なく動き、歴史が 作られようとしているのだ。自ら歴史を作ろうとしている英雄と、望もうと望まぬとも、それに巻き込まれる人々、漫画上の 中とはいえ、原作者はその彼らの運命を握っているのだ。10年近く続いた作品を中途半端に投げ出すことは出来ない。自分 の漫画家生活の凝縮とも言えるこの「銀河戦国群雄伝ライ」を今、自分の持ってるポテンシャルの最期の一滴まで絞り尽くし て描いていこうと思っている。終わりよければ全てよし!言うのは簡単なこの言葉。本当の意味をこの一年で見出していきた い。

何だか堅苦しくなってきたけど、この後はいつもの通り、笑いの涙とリポDの渦巻く製作日記だ。あ、そうそう最初に、ああ書 いてあるけど、別に今年で終わるって意味じゃないから。ほらアニメやなんかでも、最終回の1話2話前辺りって、結構大事 なキーポイントの話でしょ。そーいう意味。

今回はのっけから、姜子昌と飛竜の緊張したシーンからだ。しかしこの二人、描くのに苦労したなぁ。堅いというか動かない と言うか..いっそのことギャグで逃げようかと何度思ったことか。いつも公務上の姿しか無くて、おまけに二人ともいい年 した大人だ。これが雷当たりだったら、さっさと布団の中に連れ込んで終わりなんだけど、そうもいかないお二人さん、取り 合えず、こんな形で締めるしかなかったよ。満足はしてないけど、打つ手無しだ。一瞬だけ、本来の女に戻った飛竜と、それを余 り期待を抱かずに受け止めた姜子昌..そんなところか?

仕事中にちょいと沢田先生にお電話。冬コミの同人誌を送るので住所を聞くのが用件。今まで編集部を経由して送っていたの だが、さすがに敏速というわけにはいかないので、直接郵送。沢田先生も何やら冬コミに本を出していたらしいが、頑として 内容を教えてくれない。恥ずかしいを連発するのだが、何を今更..何やってたんだろう、FFかなぁ。格闘ゲーはもう卒業し たらしいし..

羅候、しっかり、邑峻に説き伏せられてます。惚れた女に弱いのは雷も同じ、戦場では無敵の二人も女房には頭が上がりませ ん。もっとも羅候の場合、最初から姜子昌の策には、従いたくない部分もあったんだろうと思う。戦術的撤退であろうとも、 敵に背を向け、都を明け渡し、反撃に出ようとも、そのタイミングは第3国まかせ、氷のように冷めた男でもなければ、とても 納得できない策だ。まぁここら辺の件は三国志の呂布の末路に通じる物がある。一見だらしがないように見える羅候の行動も 裏を返せば、より人間っぽいところか。この羅候の行動のお陰で対南天会戦は大きなものは後二回というスケジュールは変わら ないとしても、時期は少し早まった。後は姜子昌対師真の再度の知恵の勝負を何処に持っていくかではあるが..南天に五丈 が侵入してから、まだ大きな戦いがなかったので、少し早めても良いだろう。そう言う訳で羅候が姜子昌の策に逆らってくれ てありがたい。持久戦は実際に地味な戦法だが、描いている方もやはり退屈。路線変更を自然っぽく見せてくれた羅候の性格 に感謝だ。

この後、羅候がかき集めた新兵を前に檄を飛ばすわけだが、本当はもっとロングで大きく見せようと思ったが、しんどいので 手を抜く。ここらは単行本集録時にいじることになるな。

とうとう、羅候、怒りにまかせて姜子昌の大都督の地位を剥奪しちゃった。羅候も、今まで自分の思う通り軍勢を動かして いた(勿論細かいところは姜子昌他にフォローしてもらっているが)経験から何かと制約のある今回の戦に苛立ちを感じてる んだろう。そのどうしょうもない感情のはけ口なのが、自分に最も近い臣下である姜子昌や龍緒だったのだ。要は二人ともい わゆるとばっちりを食ったわけだが、作者側としてもここらで二人には一時的に退場してもらう必要もあったわけだ。前回の 六紋海での会戦とは違い、今回の北京沖での会戦は、壮大な戦術論での戦いではなく、まさに羅候の雷への対抗心を中心に描 きたいのである。いや、これだけに絞りたい。ここでは師真と姜子昌という二大軍師の知恵の勝負はお預けとし、天下人を目 指す二人の最期の直接対決にしたいからだ。と言うのは本当に最期の最期、最終決戦でアニメじゃないが雷と羅候が一騎打ち して雌雄を決するという、いかにも少年マンガするのは避けたくて..何か変じゃない、巨大な組織の頂点にいる人間が天下 が決まるという瞬間に、自分とほぼ同様の力を持つ男と一騎打ちするなんてさ。それにね、どんなに必死で描いたとしても、 一騎打ちでは、天下を決める最期の戦いには相応しくないと思うんだよな。ウルトラ画力でもあればなら可能かも知れないけど.. なら直接対決をし、刃を合わすのは今回で最期と言うことになるわけで、しかも最終決戦の前哨戦でもあるわけだし、あんま し時間を掛けずにサクサクと進めていきたいのだ。その為にも時間が掛かるだろう知恵の対決を物理的に不可能にしていきた いと思い、姜子昌には悪いが一時的に退場願ったわけだ。勿論、その後、姜子昌には師真をもたじろかす、必殺の策を持って 再登場するわけだがその策の内容はまだ内緒。

いつもの如く、頭8ページを先に入れる。取りに来た安藤氏から編集部宛にやってきた年賀状を受け取るが、み〜んな女の子。 いや別に良いんだけどね。いつの間にか読者層の性別が入れ替わったようだ。

今、気付いたんだけど南天って、姜子昌以下数名以外名前が無いね。名前があるのは六紋海で生き残った連中だな。最近よく出張 ってる犀将軍象将軍ですら名前が無いや。いわんやぼーっと立ってるだけのペンギン参謀なんかには..ううっいかにも将 が小粒になってしまったという証拠みたいな現状だ。先月号で飛竜が指摘していた、南天軍の弱体化を如実に表しているね。 まぁ来月号では各自に名前を付けてあげよう。もっとも仕事場では「ペンギン参謀」とか言ってた方が通りが良いんだけどなぁ。

未だ囚われの身である英真。ちょっと岩牢が広すぎるかなぁ。麟とは何となくうまくいってるケドね。よく考えてみたら英真も いい大人、大店の跡取りなら本来なら、どこかのお嬢さんと縁談話だってあるはずだ。これは裏設定だけど、さすが女遊 びの達人師真と同じ血が流れる兄弟、兄ほど派手じゃないけど、豪商の御曹司らしく、豊富な女性遍歴を彼も持ってるのだ。 口は上手そうだし、きっとツボを得たセリフを静かに女の子に囁くタイプかな、英真って。話がまたまた脱線しちゃったけど、 牢番の顔、浮いてるね、顔の長い方。コイツね、今考えてる新しい連載の主人公なのだ。勿論、まだまだキャラ的にも煮詰め てないんだけどね。あんな顔でも実は彼、独裁者の役なの。何処でやるかはまだ未定だけど、構想中のスケッチブックをほんの一 部、ライの中で公開と言うことで..

五丈の謀略の魔の手は南天の古参の将軍にまで及ぶ。金角、銀角、真鍋漫画の中では良く出てくる、いわゆる使い回しの彼らだ。 (ビバ!うさぎ小僧の金角、銀角は忘れてくれい。)六紋海の戦いで初登場したこの二人、もはや南天の中では珍しい人間型 だが、正直、あんまり目立たなかった。一部の女性ファンに何故か熱烈に支持されてるけど、こんな事でようやくスポットラ イトが当たるわけだ。彼らは恐らく関ヶ原での小早川秀秋の役回りを演ずることになるんだろうが、それが彼らの運命にどう 作用するか..これもまた、戦国の歴史に翻弄される男達の姿である。

最期に師真の元に華玉からの手紙が到着するが、ぶっちゃけた話、まだどうやって英真を救助するのか、考えていない。と言 うことで手紙の文面は何だかオブラートを掛けたかの様な内容だ。ま、基本的には敵の挑発には乗るな、軍師の弟が人質とし て、どのくらい価値があるかを羅候に教えてやれと言う辺りじゃないかな。そういや以前、師真は最も自分を理解してくれる 弟を亡くすとか書いちゃったな。て事は英真、死ななきゃいかんのだった。忘れてた。

原稿紛失時件の後始末というか、関係改善というか..今月の3日に社長との会食の予定。こっちが望んでいた男の処分は出 たのかねぇ。その回答次第で楽しいお酒か、気まずいお酒かが決まるような気がするぞ。はて?賠償金は入金されてるのかな? 通帳見てないから知らねぇや。明日にでも通帳記入に行ってこようっと。




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