1998 GAO11月号
ライ 第102話


何だか、一回目から、このコーナーは反響が凄いぞ。風の噂ではメディアワークスの人間も見てくれているらしい。 まぁ、担当さえはずれたら他人事だしね。別にこっちは誰かに喧嘩売ってるわけでもないし、出来事を並べていっ たら、あーなっただけなんだよね。けど、メディアワークスの方ご用心。前回にも書いたけど、例の原稿紛失時件、 その発生時期がどうやら、かなり昔の前のようだし、その当時の責任者にも事が及ぶかもしれないぞ。くわばら、くわばら

何で俺がこんなに、原稿の管理にこだわるかというと、正直、生原稿自体に、そんなに価値があるとは思っていない。 あれは作家の血と汗の結晶なんですっと、それっぽいセリフを並べようとは思わない。単行本なりに収まっちまたら、 ただの紙に過ぎないと思う。何年もこの仕事やってたら、それこそ、原稿の数は莫大なものになり、押入の中で溢れ かえる結果となる。作家の手に戻ったら商品としての価値は無いわけだ。ファンにでも売っちゃえばまた別だが... ただ、それが編集部にある限り商品だと思う。出版社はそれを本にするなり、なんかしてお金に換えて行くわけだ。 出版社の収入の大元じゃないのかな、原稿って。それをホイホイと無くしてるようじゃねぇ...

それともっと問題なのは、最初に書いたように今回の原稿紛失時件の発生時期だ。そう、ちょうどライのアニメを やってた時だ。その時アニメ放映と同時に出していた、ジュニアDCと言う、ライの小型版の単行本の印刷時に原 因があるらしい。らしいと書いたのは、この日記を書いている時点でメディアワークスから正式な回答が、まだ、届いて いないからだ。あの時期はちょうど、知る人ぞ知る、第一次原稿大量紛失時件が起きてから、わずか一年足らずしか経っ ていなかった。最初の事件が起きた時、俺は当時の社長であった角川氏と会い、「アニメだ、メディア展開だと、浮か れる前に、まずは基本である原稿管理の方をしっかり頼みます。」と、申し入れた。それから、たった一年でまた、同じ 事を繰り返してるわけ。どう、申し開きするつもりなんだ?あの時、原稿管理システムが出来ましたとか言って、御大層な 原稿確認書とか作って、担当者がはんこ押すとかやってたのにさぁ。800万円近くの賠償金と関係者の処分とかは何 だったんだろう。こういう事件が起きると必ず出てくる言葉が「担当が変わったので...」とか「管理する部署が替わりました」 とかだ。今回も多聞に漏れず、最初に言葉がコレだった。おいおい、人が変わろうが、環境が変わろうが、そう 言うのとは無関係に作用するのがシステムってモンじゃないの?これじゃ何のため、システムとか言う、大げさのモンを 作ったかわかりゃしない。師真も言ってるぞ、「まずは人だ」って...

今月21日で今回の紛失が最終的に確定した。一縷の望みを託していたが空しい結果に終わってしまった。見つかった ものの、全然関係ない所から、まさしく発掘された原稿も多数あって、もう、開いた口が塞がりませんわ。おまけに、 こっちが自分の所で管理するから原稿寄こせと言うと、「それが一番安心です」だって。最近ふらふらしてる銀行より 始末が悪い。いい加減、泣きたくなっちゃたよ、このセリフ聞いた時は...

正式に責任者が謝罪に来るのは来月の1日だそうな。出張やら研修やらがあって動けないんだって。何の研修やら知らない けど、原稿受け渡しの時は、指さし確認、とかをやった方がいいんじゃないのかな。来なけりゃ来ないで電話一本、寄こし て欲しいモンだ。誠意無し

はいはい、もうこんな腐るような話はやめときましょう。本題の製作日記の始まり始まり。

今月もスケジュールはまたまたピンチだ。表向き連載は一本のハズなんだけどね。それじゃ食っていけないから、色々やん なきゃいけないの。月頭からゴチャゴチャあって、ライに取りかかったのは10日過ぎだった。前回も書いたように今月 から10P減の40P。寂しいねぇ。原稿紛失なんかがあって、正直、描く気力が抜けっ放し。それでも〆切は容赦ない。 全然関係ないけど、俺の友人は〆さばと書いてあるメニューを見て、「アルファさば」と読んでたな。話を元に戻そう。

今回のライは大きく分けて3つの話だ。五丈軍を迎え撃つと息巻く羅候、進撃する五丈軍のそれぞれのエピソード、そして 最後に西羌軍の寝返りとまたまた盛りだくさん。時間もないっていうのに...羅候の話は、いつもながら怒りまくる羅候と それに同調する、脳味噌足らずの家来達、一人冷静な姜子昌。毎度のパターンである。しかしいつの間にか南天には人間の 武将がいなくなったなぁ。しかも大物が先の六紋海で死んじまったんで、名前も決まってない犀やら象やらの席次が上がっ てるぞ。けど、こいつら雑魚のくせに鎧が面倒くさい。小んまい鋲やら、細かい模様やらで、のっけから気が滅入る。今月 号は折りの関係で頭8Pが先入れ。たった8Pのくせに、こいつら動物軍団のせいで、仕事がはかどらんじゃねぇか。

やっとこさ、頭8P、放り込んで残りに取りかかるが、時間もやはり無い。次のシーンは戦況のナレーションをバックに 五丈軍の各武将の進撃模様だ。よくあるでしょう、アニメとかで長い戦いの時間経過を見せる時に、戦いのシーンに オーバーラップして地図上に矢印が進んでいって、軽快な音楽と共にナレーションがダブるってやつ、今回の南征は 一々細かい戦闘は見せられないので、その用法でコンパクトにまとめたつもり。孟起とか新しいのがいるので個性も見せ なきゃならないし、かといって延々と続けるわけにもいかない。そういう中で俺がぜひともやりたかったのは、三国志 での孔明の南蛮攻めのようなシーンだ。不慣れな気候や、猛獣やら原住民やらをワンサカ出したいと思ってた。何故かと いうと羅候達、南天人と雷達の物の考え方の違いってものを見せたかったからだ。こーんな厄介なところに住んでる連 中だ。雷達とはまた違う天下を考えているんだって所をね。考え方も、文化も、戦い方も全て異質なものにしたかったのだ。 中華民族とモンゴル軍団、カエサルとガリア人、共産主義と自由主義って感じでね。それに今度は羅候の方が地元の有利 さを利用する番、逆に言えば雷がそれに苦しむ番だからだ。孔明の南蛮攻めも、小説なんかじゃ、毒虫や大蛇とかが出てき てた。人間を襲うのが大蛇ならば、船を襲うのは...ノーチラス号でも有名な巨大イカだろう。というわけで項武とイカと の一騎打ちが生まれた。折も折り、NHKの「ためしてガッテン」はイカの料理法だった。ガッテン、ガッテン。

この後、雷の対南天諸部族対処方が、窺えるシーンが続く。ここら辺はテムジンやフビライの考え方や、カエサルが ガリア人を支配した時の用法を参考にした。最近、雷の冷酷さが目立つとの指摘も多いが、それが作者の思惑なのだ。 どうでもいいが、ここで初めて猿顔の獣人が出てきた。意外と難しいモンだ。まぁ、とにかく少し、南天人のレパー トリーが増えたって事は喜ばしい。最近はペンギンやらタツノオトシゴまで動員してたもんな。ほとんどギャグ、すれすれ。

師真は英真のことで結構悩んでる。ホントはね、師真が英真の中に自分と同じ王差の才ってのを感じ取って、それを南天 に利用されるのを防ぐために英真を殺そうとするってのが、アニメやってた頃に構想の一つとしてあったんだけどな。 そういう方が描きやすかったな。まだ、英真の運命を決めかねてる俺...さすがに最終章にもなると各キャラに結末を着け なくっちゃならない。生き残る奴、死んじゃう奴とか...死んじゃうにしてもどんな死に方をどの時点で見せるか...できれば みんな、華々しく散って欲しいんだけど、意外とあっさりとか、病死したりとか、とにかくメリハリつけなくっちゃなぁ。 殆どのキャラは今後の運命は決まってるんだけど、英真は未だだ。あんまし迷ってる時間無いなぁ。

ムチャクチャ忙しいのに、車を車検に持って行かなきゃならない。くそっ取りに来て貰えば良かった。車検代締めて18万円。 保険を更新したので更に14万円。おまけに会社の決算だったので、決算料として33万円も取られてしまった。仕事終わ ったら温泉行くしノートパソコンも買わなきゃならんのに〜 お金のことは実に大雑把なんでいいけどね。貯めても仕方ないし...

ちっとも原稿が上がんないので業を煮やした佐藤氏が出来たモンからどんどん持っていってしまう。ラストの8Pが危なくなって きた。代原用意だ!不謹慎にもスタジオ内では、誰がその代原を描くんだろうとの噂話で持ちきり。昔は島田氏が無理矢理ページ 増やされたりしてたなぁ。それとなく佐藤氏に尋ねてみると、もう用意されているとの話。こんな時に備えて最近レギュラー 気味の某新人作家に6.8.10Pといった具合にショートギャグを描かしてストックしてるらしい。手回しいいなぁ

〆切の18日だ。ケツ8P、未だ上がらず。こりゃもう、減ページだ。けどとにかく寝れる、既に48時間殆ど眠ってない。 一日づつ15分ほど小寝してただけだ。佐藤氏はアシストに俺がいつまで寝てるのか執拗に聞いていたという。これからは 俺が寝てる時は、電話を取らないように言っとこ。心配もわからんでもないが、いつどの時間に寝ててもいいじゃないの。 ねぇ? 後半32P中24Pを渡して「すんませーん、もうだめです。」、コレで全て終わりのはずだったが、ここで意外な 展開。未だ後一日、〆切を引いてくれるそうだ。今月は休みの関係で発売日が一日早いというのにこのご配慮、感謝します。 いわゆる、デッドラインを越えてゴッドラインに入ったようだ。しかし、しかしだ、一度、もう落ちたと思ってただけに 車を路肩に寄せて、ステアリングを外してしまった状態だった俺に、未だ、走れますよっと後ろからドクドクと給油されて またまたコースに押し出された形になってしまった。本来なら感激して、もうチャージが始まると頃なんだが、それどころか 一向にギアがトップに入らない。一度抜けたポテンシャルは二度と戻らなかった。残る周回をローで走るのはホントに辛い。

最後の8Pは秦宮括のお話。彼が失脚する話だが、ここでも彼の今後の運命をどうするかちょっと迷った。雷に背いて 斬られるか、単に幽閉されるだけで西羌が滅びた後、雷の陣営に一武将として残るべきなのか...最初は後者の案だった が、三国志の馬超のように秦宮括にはあくまでもアウトサイドにいて初めて魅力が出てくるキャラである。雷と同じく もしかしたら、天下を窺うこともできた英雄の一人だ。逆に雷にとって天下統一後には、自分の地位を狙うことが出来る 危険極まりない男、漢朝の韓信や鯨布のように処分される役柄だ。戦乱の世には重宝されるが、一度乱が収まり、天下が 束ねられると危険な存在になってしまうような...雷は初めから彼には懐柔策で当たってるわけだし、西羌の後がまには弟、 公旦に任せるつもりなんだから、秦宮括は必要無いって事になる。こりゃ、雷に殺されるな、秦宮活は。

ライの話は英雄豪傑らが集まって体育会系のノリで「天下統一、オーッ!!」ではない。それだったら、少年誌向けで描く方 も楽だったが...そういうノリに隠された陰湿な部分を描くつもりだ。師真ら腹心にも窺え知れない支配者の顔を持つ雷。 ただ、冷徹と冷酷との違いは、はっきりさせとかなきゃホントの悪人になってしまうな。読者にその違いをどんな形で 見せていくかがこの最終章の見せ所かも知れない。

ズルズル延びて、ゴッドラインはおろかオーバーゴッドラインにまで到達して20日の朝に原稿は上がった。ごめんよ〜 来月はもっと急いでやるよ〜、といつもの懺悔を繰り返す俺だった。佐藤氏の帰り際に沢田先生に渡す夏コミのスタジオ かつ丼の新刊同人誌を委ねる。沢田先生の担当を通じて渡すわけだが、今は編集長が担当らしい。横沢さん、中身、 見ちゃだめだよ。まぁ、別に問題があるわけじゃないけどさ。

この後、先の原稿紛失時件の最終報告が入り、一気に不愉快なる。おまけに謝罪はずっと先ということで、さらにへそを 大いに曲げてしまう。社長を出せ、社長を!!  佐藤氏曰く、「社長ともなると更にスケジュールが混み合ってまして...」 まるでお役所様のお返事だ。かなわん!!



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